『グリーンスローモビリティシンポジウム』開催報告
グリーンスローモビリティシンポジウム~Green! Slow! Safety! Small! Open! 地域を開く
New Public Mobility!!~開催報告
1.趣旨
2019年6月13日(木)にマイドームおおさか 3F展示ホールにおいて、地域が抱える様々な交通課題の解決と、地域での脱炭素型モビリティの導入を同時に進められるグリーンスローモビリティの推進に向けて、理解を深めていただくためのシンポジウムを開催いたしました。
※グリーンスローモビリティ…電動で、時速20km未満で公道を走ることが出来る4人乗り以上のパブリックモビリティ
2.プログラム/講演資料
【開催日時】 2019年6月13日(木)14:00~17:00
【主 催】 国土交通省
【後 援】 (公財)交通エコロジー・モビリティ財団
【場 所】 マイドームおおさか
プログラム内の講演資料は以下よりダウンロードが可能となっております。
14:05 基調講演 大阪大学大学院 工学研究科地球総合工学専攻 土井健司 教授
14:25 活用事例① 広島県福山市 建設局 大谷琢磨 参事
14:40 活用事例② (一社)でんき宇奈月 町野美香 専務理事・事務局長
14:55 休 憩
15:50 パネルディスカッション「グリーンスローモビリティの事業化に向けて」
パネリスト:東京都豊島区 原島克典 土木担当部長
静岡県沼津市 都市計画部 まちづくり政策課 交通政策室 遠藤重由 主査
社会福祉法人みずうみ 岩本雅之 理事長
京浜急行電鉄株式会社 生活事業創造本部まち創造事業部 一條英仁 課長
コーディネーター: (公財)交通エコロジー・モビリティ財団交通環境対策部 熊井大 調査役
16:20 閉会挨拶
16:35 実証調査支援事業の公募説明 国土交通省総合政策局環境政策課
購入費補助事業の公募説明 環境省地球環境局地球温暖化対策課地球温暖化対策事業室
17:00 閉会
3.シンポジウム開催報告
■開会
■基調講演
まず、基調講演として、大阪大学大学院 土井健司教授から、ご講演をいただきました。
土井教授からは、移動や交通ニーズが変化していく中、ひと中心の移動サービス・交通体系への変化が求められていること。また、低炭素型社会の実現と地域が抱える様々な交通の課題の解決を同時に進められる新しいモビリティとして、グリーンスローモビリティ活用への期待についてご講演をいただきました。グリーンスローモビリティの更なる展開に向け、ローカル~グローバルなコンテクストを重視し、現在及び将来世代にとって価値合理的な創造が必要であることのほか、グリーンスローモビリティを評価する視点(社会的インパクト)についても、ご提示いただきました。
■活用事例の紹介
続いて、活用事例の紹介として、広島県福山市建設局 大谷琢磨参事及び一般社団法人でんき宇奈月 町野美香専務理事・事務局長より、それぞれご発表いただきました。
大谷参事からは、昨年度の国土交通省の公募事業において、実証調査のモデル地域に選定され実施した鞆の浦での「しおまちモビリティ実証調査」のご紹介と、実証調査終了後わずか4ヶ月で、全国で初めて緑ナンバーで運行開始に至ったグリスロタクシーについて、ご紹介いただきました。
実証調査から本格運行に向けた取組みとして、関係機関との課題整理や現場の状況把握、関係機関との密な協議・調整を行ったこと、乗客・乗務員の安全性を確保するために運行してよい道路と極力運行を避ける道路を区別するなどのルール「福山市におけるグリーンスローモビリティによる一般乗用旅客自動車運送事業運用要領」を策定されたこと、福山市地域公共交通会議において審議し、アサヒタクシー㈱が鞆の浦で運行することを承認いただいたこと、周知のためのチラシ配布や口コミによる紹介・案内をお願いしたことなどを紹介いただきました。
実証調査並びに本格運行に向けて重要なこととしては、役割分担の明確化、地元住民や交通事業者との密な調整と連携、まちづくりに適した形態での導入など、身を持って感じられた見解や秘訣もご助言いただきました。
町野専務理事・事務局長からは、宇奈月温泉において自然エネルギーとEVバスによる交通事業を導入し、先進的なエコ温泉リゾートとして観光客の誘致、エネルギーの地産地消による自立した地域づくりを推進するプロジェクトについて、ご紹介いただきました。
運行体制として、運転手はシルバー人材に委託していること、運行管理はでんき宇奈月が事務局となり、時刻表の作成、運転手勤務予定・記録作成、乗車人数集計、トラブル対応などを行っていること、運行費用については、黒部市からの運行補助や企業広告協賛費などで賄っている実態についてもご紹介いただきました。
困っていることとしては、車両の電気系トラブルがあった場合、製造会社しか対応できないため、復旧までに時間を要すること、EVバスに興味を持たれている観光客に対して運転手が声かけをし、乗車してもらうスタイルであるため、運転手のコミュニケーション力の違いにより乗客数に偏りが生じてしまうことなどの課題もご紹介いただきました。
■パネルディスカッション
【パネルディスカッション】
パネラー: ・静岡県沼津市 都市計画部 まちづくり政策課 交通政策室 主査 遠藤重由 氏
・社会福祉法人みずうみ 理事長 岩本雅之 氏
・京浜急行電鉄株式会社 生活事業創造本部まち創造事業部 課長 一條英仁 氏
・東京都豊島区 土木担当部長 原島克典 氏
コーディネーター:(公財)交通エコロジー・モビリティ財団交通環境対策部 調査役 熊井大 氏
パネルディスカッションでは、グリーンスローモビリティを実際に導入、または導入検討されている自治体や企業・団体の方々をパネリストとしてお迎えし、導入のきっかけや事業化する際の課題、また今後の展望について、議論していただきました。
EVバスでの試験運行を実施された後、本格運行に向けて検討を進められている沼津市の遠藤主査からは、実証実験では無料化で実施し、利用者にとっては無料であることのメリットが大きかったが、有料で本格運行を進める際の検証が必要となること、道路交通法の規定上、白ナンバーはバス停が使用できなかったことなどを課題としてご紹介いただきました。
小さな拠点を核とした地域共助型のモビリティ実証事業を実施されている社会福祉法人みずうみの岩本理事長からは、既存の事業者や交通事業者との棲み分けや、民主導で官民連携の基盤づくりをどのように進めるかが課題であるといったことをご紹介いただきました。
高齢化の進む丘陵住宅地において、住民の地域内移動支援を実施されている京浜急行電鉄㈱の一條課長からは、地域住民や交通事業者、道路管理者からの理解を得ることが課題であり、特に地域住民に対しては、住民説明会やアンケートの実施などにより理解を深めたこと、安全対策として別注でシートベルトの取り付けや、2種免許取得者をドライバーとしたことなど、コスト増となる対策が必要となったことなどをご紹介いただきました。
今年11月から運行を開始する池袋を回遊するIKEBUSの検討・調整を進められている豊島区の原島土木担当部長からは、交通管理者から安全性や他の交通への影響の観点から、幹線道路や大きい交差点での右折等の走行を避ける指導があったことなど、路線を設定することの難しさについてご紹介いただきました。
今後の展望として、沼津市の遠藤氏は「“ゆっくり”を楽しむ活力あふれる地域」、社会福祉法人みずうみの岩本氏は「共生社会のわくわく・うきうきの実現 地域の活性化」、京浜急行電鉄㈱の一條氏は「『スロー』であることの付加価値⇒まちづくり・魅力発掘のヒント」、豊島区の原島氏は「街が動いている また来たい街 まちをもっと輝かせたい そのための装置」というキーワードをもとにご意見をいただきました。
コーディネーターのエコモ財団の熊井調査役からは、事業化における大きな課題として「①関係者の理解」「②事業化(有料化)」があり、「①関係者の理解」については、自治体や運輸局等に相談しながら、丁寧に進めることが特に重要であることをご助言いただきました。
「②事業化」については、観光地での導入に比べ、まちづくりの中で導入することの難しさがあることをお話いただきました。今までの交通事業の価値は“大量かつ早い”であったのに対し、グリスロは“少量かつ低速”であり価値観が逆転するモビリティとなっていることから、住民理解を得ることに苦慮すること、ただし道路運送法に則り運賃収入を得るためには、理解してもらうことが必要不可欠となることをご助言いただきました。理解を得るため、楽しい乗り物、コミュニケーションを取れる乗り物であるという、“新しい価値”を存分に発揮し、事業化していくことの重要性をご助言いただきました。
■閉会
■車両・パネル展示コーナーの様子